今回は代理についてです。
そもそも代理とは、例えば個人では難しくて煩雑な取り交わしや交渉、契約を代わりに行う者を言います。
代理人と相手方との間で交わした双方の意思表示や契約の効力は、本人と相手方の間に生じます。
法律的には、代理行為の効果が本人に帰属するといいます。
ちなみに、代理人に対して使者というものがあります。これは、ただ単に本人の意思表示を相手方に伝達するのみの性質のものです。
1. 代理が成立する条件は3つ
- 代理人が代理権を有すること
- 代理人が顕名すること
- 代理人がその代理権限の範囲内で代理行為を行うこと
代理が成立するときはこの3つが必要です。
代理権が発生するのは、本人が直接代理権を付与する場合と法律によって代理権が当然に付与される場合があるんですね。
本人から直接付与されるものを任意代理、法律によって付与されるものを法定代理といいます。
顕名とは、本人のために代理することを相手方に示すことです。
顕名をせずに行った場合は、代理人自身のためにしたものとみなされますが、その相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、または知ることができたときには、本人に法律効果が帰属します。
上記の、~(本人のために)することを知り~の部分は法律的には「悪意」と表現します。
また、~知ることができたとき~の部分は「有過失」と表現します。
今後はこの言葉が良く出てくると思いますので、一緒に慣れていきましょう。
前述した法定代理の場合は、代理権の範囲は広く、制限が原則としてないとされています。
対して任意代理はその契約により範囲は様々ですが、代理権の範囲の定めがないときの代理人の権限は、以下の3つに限られています。
- 保存行為(物の修繕、等)
- 利用行為(現金を定期預金にする、等)
- 改良行為(無利息の預金を利息付の預金にする、等)
2. 代理権の濫用と瑕疵
代理人が自己または第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為(代理権の濫用)をした場合、相手方がその目的を知っていた(悪意)、または知ることができた(有過失)ときは、その行為は代理権を有しない者がした行為とみなされる、とされています。
また、代理人と相手方との間に生じた意思表示の瑕疵は代理人を基準にして判断することになる、というものがあります。
まず意思表示の瑕疵(かし)というのは、その意思表示になんらかの問題があった場合をいいます。
よく言われるのが、心裡留保(相手方に示したものと内心が異なる)、虚偽表示(嘘の意思表示)、錯誤(勘違いによる意思表示)、詐欺、強迫の場合です。これらの意思表示の場合は、本人がこれらの意思表示を実際に受けていなくても、契約を行う代理人の立場から判断することということになります。
ただし、本人が知っていた事情または知ることができた事情については、代理人の善意を主張することができないとされています。
善意とは、この場合 事情を知らないということです
上記の虚偽表示でいうと、本人が、相手方が虚偽表示をしていると知っていて、そのことを知らない代理人に委託して虚偽表示された物を購入した場合は、本人は虚偽表示と知っているので、代理人の立場(善意)から判断できない、主張できないということになります。
3. 任意代理と法定代理が消滅するとき
任意代理と法定代理によって、その代理権が消滅する要件が異なります。
整理していきましょう。
共通要件
- 本人の死亡
- 代理人の死亡
- 代理人は破産手続開始の決定を受けたこと
- 代理人が後見開始の審判を受けたこと
任意代理特有の消滅要件
- 代理契約の解除
- 本人が破産手続開始の決定を受けたこと
法定代理特有の消滅要件
- 本人が行為能力者になったこと
- 家庭裁判所によって解任されたこと
4. 代理権を持っていない無権代理
代理権が付与されていない者による無権代理行為の効力は、本人に帰属しないとされています。
ただし、下記の要件時は契約の効果が本人に帰属します。
- 本人がその無権代理行為を追認
- 表見代理が成立
まず、無権代理行為を追認することは、その無権代理行為の効力を本人に帰属されるという意思表示になります。
追認は相手方や無権代理人にすることができますが、無権代理人にする場合はその事実を相手側が知った時を除き、相手方にしなければその相手方に対抗することができないとされています。
なお、追認した際の効果は契約締結時に遡って有効な代理行為になるとされています。
4-1. 無権代理行為に対する催告権と取消権
無権代理行為の相手方には、本人に対して相当な期間を定めてその期間内に追認するかどうかを確答すべき旨の催告権が認められ(相手方が善意悪意問わず)、善意の相手方には本人からの追認を受ける前に契約を無効にする取消権が認められています(善意の相手方のみ)。
催告した相手が期間内に確答しなかった場合は、追認を拒絶したとみなされます。
また、取消権は本人と無権代理人のいずれに対しても行使することができます。
4-2. 無権代理人の責任
無権代理人は、代理権がないことについて善意無過失でも相手方に対して履行または損害賠償の責任を負います。(無過失責任)
ただし、下記の場合は責任を負わないとされています。
- 無権代理人が本人の追認を得たとき
- 無権代理人であることを相手方が知っていたとき
- 無権代理人であることを相手方が過失によって知らなかったとき
(ただし無権代理人が自己に代理権がないことを知っていたときは例外) - 無権代理人が行為能力の制限を受けていたとき
4-3. 無権代理人の立場を相続する場合
例えば本人が親で無権代理人がその子どもである場合、無権代理人である子どもが死亡した際には相続開始により本人が無権代理人の地位を受け継ぐことになります。
この場合には、本人の地位に基づいて無権代理行為を追認することも拒絶することもできます。
ただし、追認を拒絶した場合でも無権代理人の責任も承継することになります。
別の場合ですが、本人が死亡し当該の無権代理人のみが相続人の場合は、本人の地位に基づいて無権代理行為の追認を拒絶することは認められず、無権代理行為は有効となります。(相続前に本人が追認を拒絶した場合は有効となりません)
相続人が他にもいる場合は、共同相続人全員が共同して追認しない限り、無権代理人の相続分に相当する部分においても無権代理行為が当然に有効になるわけではないとしています。追認権は不可分であるということですね。
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